性的な好みや傾向、いわゆる「性癖」について悩んでいる方は少なくなく、特殊性癖であったり異常性癖と呼ばれるものを治したいと考える人は一定数います。
また、パートナーや家族で性癖を治してほしいと思っている人もいらっしゃいます。
ここでは、「自分の性癖は変えられるのか」「治療は必要なのか」「どんな治療法があるのか」についてお伝えします。
「治療が必要な性癖」と「個性としての性癖」の違い
まず大切なのは、すべての性癖が「治療」を必要とするわけではないということです。性癖を考える上で重要な基準は以下の3点です:
- 同意:
関わる全ての人の自発的な同意があるか - 安全性:
自分や他者に危害を与えないか - 生活への影響:
日常生活や社会生活に支障をきたしていないか
これらの条件を満たす性癖は、「治療」というよりも「個人の性的個性」として捉えるべきでしょう。一方、以下のような場合は専門的な支援が必要かもしれません:
- 自分や他者に身体的・精神的な危害を与える恐れがある
- 同意のない行為に強い衝動を感じる
- 性的思考や行動が制御できず、日常生活に著しい支障がある
- 強い苦痛や罪悪感、恥辱感を伴う
性癖へのアプローチ:科学的に有効な方法
性的嗜好に関する悩みに対して、科学的根拠に基づいた以下のようなアプローチが有効とされています。
認知行動療法(CBT)
認知の歪みを修正し、非適応的な行動パターンを変えていく心理療法です。性的思考や行動に関連する認知の再構築や、新たな対処スキルの獲得に役立ちます。
具体的な技法:
- 認知の再構築:「〜しないと満足できない」という考えを柔軟なものに変える
- 刺激制御:性的衝動が高まる状況を認識し、回避または対処する
- 欲求のサーフィン:衝動を抑え込むのではなく、波のように通り過ぎるのを観察する
マインドフルネス・アプローチ
瞑想やマインドフルネス技法を通じて、性的思考や衝動に対する気づきを高め、それらに振り回されない心の状態を育みます。
実践方法:
- 呼吸に意識を向ける瞑想(1日5〜10分から始める)
- 性的思考が浮かんだときに「今、性的な考えが浮かんでいるな」と客観的に観察する
- 判断せずに受け入れる姿勢を培う
アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)
望まない思考や感情との関わり方を変え、価値に基づいた行動を促進する心理療法です。
主なプロセス:
- アクセプタンス:性的思考や衝動を抑圧せず、あるがままに受け入れる
- 認知的脱融合:「私は〜という性的思考を持っている」と、思考と自分を分離する
- 価値の明確化:性生活を含む人生全体で大切にしたい価値観を見つめ直す
セラピューティック・コミュニティ
同じような悩みを持つ人々との交流や、サポートグループへの参加も効果的です。孤独感の軽減や、新たな視点の獲得につながります。
参加方法:
- 専門家が主導するサポートグループ
- オンラインの匿名コミュニティ(安全性を確認したもの)
- 個人セラピーとの併用
性癖と向き合うためのセルフケア
日常生活の中でできるセルフケアの方法をご紹介します。
マインドフルネス実践
1日5〜10分程度、呼吸に意識を向ける瞑想を行いましょう。性的思考が浮かんでも、判断せずに観察し、再び呼吸に意識を戻します。これにより、思考に振り回されない心の状態を育めます。
健全な身体活動
適度な運動は性的エネルギーの健全な発散につながります。有酸素運動やヨガなど、自分に合った活動を取り入れましょう。
感情日記をつける
性的衝動が強まったときの状況や感情を記録しましょう。パターンを認識することで、適切な対処法を見つけやすくなります。
代替となる満足感を見つける
創造的活動、趣味、人との交流など、性以外の領域で満足感を得る経験を増やしましょう。
睡眠と栄養の管理
良質な睡眠と栄養バランスの取れた食事は、ホルモンバランスや気分の安定に寄与し、衝動コントロールを助けます。
性癖に悩んだときの受診先・相談先
精神科・心療内科(性依存・性嗜好障害に対応)
- 性依存症や性嗜好障害(DSM-5)として診断・治療対象
- 認知行動療法・カウンセリング・薬物療法が中心
- 精神的な苦しさ・抑えきれない衝動がある人向け
→ 「性癖をコントロールできない」「生活に支障が大きい」場合に最適
性の専門カウンセリング・性教育カウンセラー
- 日本性科学会認定セックスカウンセラー、臨床心理士など
- 性癖や性に関する価値観・パートナーシップ相談
- 治療ではなく相談・支援が目的
→ 「性癖のことで悩み・不安がある」「価値観を整理したい」場合に最適
産婦人科・泌尿器科
- 性行動に伴う身体的な悩み(性交痛・性機能障害・感染症)
- 性行動と身体の不安を同時に相談したいとき
- 女性は産婦人科、男性は泌尿器科が基本
→ 「性癖と体調の関係が気になる」「安全性の確認をしたい」場合に最適
公的な相談窓口(性犯罪・加害防止相談など)
- 各自治体の性犯罪相談窓口、NPO法人など
- 「違法性のある性癖への衝動が怖い」「誰にも言えない悩みがある」場合
- 秘密厳守で匿名相談可能
まとめ
性的嗜好は人間の性の多様性の一部です。その多様性を認識しつつ、自分と他者を大切にする健全な性のあり方を見つけていくことが重要です。
治療が必要かどうかの判断基準は、「同意」「安全性」「生活への影響」の3点です。これらを満たしている場合は、無理に「治す」必要はなく、自分らしい性のあり方を受け入れることも選択肢の一つです。
一方で、苦痛を感じる場合や生活に支障がある場合は、専門家のサポートを受けながら、より健康的な性生活を目指していくことも大切です。
どのような選択をするにせよ、自分を責めることなく、温かい気持ちで自分と向き合っていきましょう。性の健康は、心と体の健康全体の大切な一部なのです。